税理士事務所にとって、”番頭さん”役の職員が退職するというと、どんな事態になるのでしょう?
いまどき、時代遅れな”番頭さん”などの表現が通用するのは、この業界だからかも知れません。
でも、実情を考えますと、堂々とこの表現が生きています。
なぜだろうかと考えますと、番頭さんは、税理士さんが外に出ている間の事務を仕切る役。
でも、経営者である税理士は、店のやりくりを番頭さんに任せて、外に出ているのでしょうか。
決してそんなことはありません。
さらに番頭さんが、事務所の先頭に立つて仕切ることも、認めていないのではないでしょうか。
それでも、「うちの”番頭さん”は、よくやってくれます」なんて言う表現が出てきます。
このような言い回しをするのも、50代後半の人以上でしょうから、次第に死語になってくるでしょう。
実は、去る事務所で、その”番頭さん”から、「事務所を辞めたい」と言う意思表示がありました。
先生は申告書のみならず、総勘定元帳などから申告まで、自分でチェックしなければならない人。
”番頭さん”任せで、申告書を最後にチェックし、申告書の署名捺印するだけの人ではありません。
ですから、”番頭さん”が辞めても、彼の業務が他の職員に振り分けられるだけの話。
作業が間に合わないのであれば、職員を補充すればいいのですが、それもままならない。
というのも、”番頭さん”と同じ働きができる人材が、欲しいというのです。
これは問題です。先生とともに20年以上も働いてきたキャリアを踏襲できる人は、いないでしょう。
人情から言っても、職歴同じようなものでも、新たな事務所で、前任者と同じように働けるでしょうか。
もうそれなりの歳、そしてキャリアを積んだ人に、その染みついた”慣習”を脱ぎ去り、心機一転。
これは無理でしょう。
それにその前任者はどんな仕事につくのでしょう。
過去の例では、友人の会社の経理をやると言って突然辞めた”番頭さん”がいました。
先生は成長著しい企業の経理担当ならしょうがないと送り出しました。
その”番頭さん”が数か月後に、元の顧問先に営業にやってきました。それもライバル事務所の職員として。
確かに”番頭さん”の給与は、決して高いものではありませんでした。
しかも、先生はほとんど顧問先に顔を出すこともなく、ほとんど職員任せ。
そんな長年の”恨み”から、番頭さんは嘘を言って、ライバル事務所に移り、その際お客も持っていきました。
私がその退職理由は怪しいと言っても、人のいい先生はそんなことは信じられないと突っ張りました。
結果は見事に”番頭さん”からしっぺ返しを受けたのです。
こんな例は時々耳にしますが、やはり、”番頭さん”が辞める時には、それなりの理由があるでしょう。
人生も後半戦に入っているのが普通ですから、本来は先生が辞める時に一緒に、辞めたいものです。
でも、そうは問屋が卸さないのですね。
先生は事務所を閉める時には、どうか職員の雇用を確保できるように、考えてはいかがでしょうか?
事業承継支援室長
大滝二三男