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事務所価値が落ちる前に事業承継「もっと早く事務所を譲っていれば……」

ポイント

  1. 所長税理士が事務所譲渡の際に受け取るお金は、勤続年数に応じて額が変わる会社員の退職金と違い、経営年数が長いというだけで金額が上積みされることはない。
  2. むしろ引退時期が遅くなればなるほどもらえる“退職金”が少なくなってしまう傾向にある。
  3. 長年の苦労に見合う対価を得られないと、税理士人生そのものを後悔することになりかねない。
  4. 可能な限り多額の退職金を受け取るため、事務所の価値が急落する前に事務所譲渡や経営統合の決断も視野に入れておかなければならない。
会計事務所を立ち上げたばかりの所長税理士は誰しも、顧客増加による事務所拡大を目指す。

設立から10年、20年と時が経つと、経営が安定する事務所も多い。

しかし所長が高齢になれば、多くの事務所は伸び盛りの事務所との競争で勝つことが難しくなり、新規顧客の獲得をあきらめざるを得ないという状況になる。

その後は顧問先が廃業するごとに収益が減り、事務所は縮小していくことになる。

神奈川県の高本茂義さん(仮名)の例

神奈川県の高本茂義さん(仮名)の事務所もそうした例にたがわず、設立から30年ほど経ったころから新規顧客とめぐり合えなくなっていた。

顧問先が数十件あるうちは経営を続けるつもりだったというが、1件の優良顧問先との契約が終了したことをきっかけに、まだ多くの顧客が残っている段階で事務所譲渡を決意することになる。

「年間4、5件の顧問先が減ることは計算に入れたうえで事務所経営を続けていました。ただ、長年の付き合いがある顧問先から契約を打ち切られることはまったく頭になかった」

その顧問先は高本さんが開業した直後に起業し、いまでは地元で有数の売上規模を誇るほどに成長した中堅企業だった。

30年以上の付き合いがあり、どちらかが廃業するまでずっと顧問契約が続くと高本さんは思い込んでいた。

しかし創業者が勇退することを決めたことで状況は一変。

バトンを受け取った後継者が顧問税理士の変更を決めたという。

創業者からは「先生には悪いと思うけど、息子(後継者)にすべての経営判断を任せることにしたからどうしようもない」と電話があっただけで、その後に顔を合わせることはなかった。

その会社はすべての顧問先のなかで最も事業規模が大きく、顧問料は事務所の売上のかなりの部分を占めていた。

そのため、たった1件の解約で収益が大幅に減り、事務所価値は急落した。さらに価値が下がる前に事務所を譲ることにしたという高本さんは、「顧客が減り続けている状況で事務所経営を続けることのリスクを軽視していた。売上があんなに一気に下落するとは思っていなかった。もっと早く事務所を譲っていれば、譲渡先から受け取れるお金は全然違うものだったのに……」と後悔を口にする。

会計事務所の事業承継や合併のサポートをするエヌピー通信社事業承継・M&A支援室の大滝二三男室長は、「事務所譲渡の時期を見誤り、受け取れる“退職金”を大幅に減らしてしまう所長税理士は多い」と語り、高本さんの事例はレアケースではないとする。


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