税理士事務所に勤務する職員にとって、所長の健康問題は一大事。
所長が事務所の出られなくなれば、近い将来は事務所閉鎖となる。
そうなれば、職場を失い、生活のめども立たなくなる。
自分達だけで対策を立てることも出来ず、不安な日々を過ごすことになる。
ただし、所長の家族が勤めていれば、ともに考える機会もある。
数週間前の案件では、独身の娘さんが所長と職員の゛潤滑油゛に。
税理士歴45年を超えた所長は、腎臓を患い、週三日人工透析をうける。
所長不在の時は、娘さんが職員の業務を把握し、帰宅した所長に報告。
娘さんから事務所の日々の報告を受けることで、所長は納得。
しかし、所長からの指示が減っている状況に、職員の不安は日々増加。
そんな状況を見続けていた娘さんが、当支援室に連絡してきた。
かつて、勤務税理士が職員数人とお客を引き連れて独立した。
その時は所長は元気だったので、主な職員は残り、゛軽症゛で済んだ。
それから数十年、今では職員も歳を重ね、事務所力も衰えている。
とは言うものの、ここで事務所を辞める訳にはいかない。
先生は少しばかりボケの兆候もあり、突如事務所閉鎖すると強弁する。
家族相手にそう発言する所長に、事業承継を説得したいという。
それも職員の雇用を守り、皆が年金をもらえるまで勤めてもらいたい。
それが、45年以上事務所を運営してきた所長の努めだと、娘さんは言う。
その思いを実現するために、娘さんとの共同戦線を直ちにスタートさせた。
まずは長い歴史のある事務所の実情を把握し、職員の思いも訊く。
それらの情報を細かく分析し、事業承継の形を娘さんに報告。
健康状態が万全でない所長の働く場所も、もちろんしっかり確保。
具体的な承継方法については、まず娘さんが所長に話し、説得した。
その上で、当支援室との面談となり、所長とともに家族も同席。
通常面談は2度ほどで話が進むのだが、この時は回を重ね5度に。
それと言うのも、先生の自宅にまだらボケが時々顔を出したのだ。
これに家族が我慢強く対応し、最終的には先生から職員にも説明。
承継相手も2度目の面談で、承継方法等も含め、全面同意。
そこで、契約はなんと事務所の応接で行うという、異例な形。
それも話し声が職員にも聞こえる場所だったので、こちらは不安。
しかし、大きな声で話す所長の自信たっぷりの態度にひと安心。
契約調印後、承継先の代表を職員に紹介するという、これまた異例。
調印風景を間近にした職員たちも納得し、承継業務も順調に進んだ。
この成功の要因は、実は娘さんの地道な努力のお陰。
家族と交渉し、その結果をもって所長を説得するという形は少数派。
でも、この形ではほとんどがスムーズに事が運ぶので大歓迎です。
事業承継支援室長
大滝二三男