米国でのエンロン事件などによる株価操作などの不正をただし、社内から”事件”を起こさないようにするため、特に会計監査面からのアプローチにより、内部から不正を防ぐ手法としてSOX法に裏付けられて、一時期、監査法人、ビッグ3などを筆頭に、中規模公認会計士事務所までが大もうけした経緯があります。
数年前まで、この大波が日本にも押し寄せ、公認会計士事務所関連のコンサル会社は多忙を極め、実際にかなりの収益をを計上した。上場企業などは、米国でもそうだったが、監査法人のために利益を出しているようなもので、ほとんど内部けん制システムの構築のために利益を食われてしまったという。
管理のためのシステム作りは、利益を生まないところから、株式会社にとってはこんなことにお金を使いたくないというのが本音であろう。そのシステムの肝は何かというと、筆者の理解では、すべての業務を文書化し、それを元に不正がないかどうかを常にチェックできるというもののようだ。
日本的にはどうしても理解できにくいものだという感じだが、上場企業ではグローバル経済の中で生き抜いていこうっとすれば、この管理システムがないだけで、信用がなくなってしますという”神話”に動かされて、大金をはたいた企業は少なくない。現在では、すでにシステムの整備が終わったため、監査法人も次のIFARSを商品に奮闘中。
ところで、税理士業界に目を転じてみると、内部けん制にしろ、国際会計基準にしろ、商売の道具としては、はなはだ縁遠い存在のようだ。というのも、中小零細企業に内部けん制するためにすべてを文書化するといった習慣はなじまないということ。「社員のことは俺が一番良く知っている。」なんて社長には文書化を要求しても無理。
それ以前に、税理士さんは顧問先の業務を文書化することに、「私は関係ありません。そんなことでお金はもらえません」という姿勢だろう。ご自身の関係書類などは、もちろんすべて定型化された文書やデータとして、企業側の担当者も十分理解できているので、今さら業務を文書化する必要はないと、顧問関係者双方が考える。
結果、文書として保管されるのは、株主総会などの文書以外、業務に関連するマニュアルはほとんど文書として形を残すことがなく、業務を担当する職員が口頭などで、後輩などに引き継いでいく慣習だけが、引き継がれていくようだ。でも、今の時代、果たして口頭だけの伝達方法では満足な事務引継ぎはできないのではないか。
事業承継の仕事をしているなかで、引継ぎの最中に問題が起きるのは、ほとんどが文書がないために自分勝手な解釈がまかり通り、結果としていざこざに発展する始末。日々の事務引継ぎにはそれほど文書は必要にないと思われるが、その習慣がついつい大事な場面でも、最悪の事態に遭遇し、双方の努力が台無しになることも。
やはり、内部けん制ではないが、誤りを防ぐためにも文書による確認は最低必要ではないだろうか。引継ぎ業務はついつい口頭で行われることが多いが、大事に至る前に、ことあるたびにチェックが入るようにしておけば、大事になることなく、不正を含めた小さな芽を未然に摘むことができるように思う。
事業承継支援室長
大滝二三男