息子の税理士は、4科目合格後か最後の一科目が受からず、大学院に。
試験合格組に親父さんは、その事を理由に息子を疎んじていた。
息子に対して、実務的な指導は一切なく、息子は独習。
事務所の職員たちの業務を見ながら、顧客との対応も研究した。
そんな期間が長く続き、息子も独り立ち出来るようになっていた。
そんな姿を見ながら、親父さんは息子に多くを語らなかった。
体に異常が出る年齢になった親父さんだが、健康には自信があった。
しかし、そんな親父さんも自らの体調が思わしくないことに気づいた。
そこで、息子に事務所を継ぐように、その思いを告げた。
後継者として事務所に入れたと思っていた親父さんだが、息子は違った。
親父さんの顧客に対する態度や職員への対応に、大反発していた。
その根底には、5科目合格できなかった自分を軽蔑する父親がいた。
もちろん、口には出さない親父さんだが、その態度に息子は感じていた。
当支援室では、この親父さんからの要請を受けて、仲介をに乗り出した。
実際の交渉役には、なんと息子さんが指名され、こちらもビックリ。
税理士資格を持ち、実務もできる息子さんが何故引き継がないのか?
初めて息子さんと面談したときに、率直に訊いてみた。
その答えが、親父の事務所を継ぐ気はないし、税理士も辞めます、と言う。
親父さんの事務所が嫌でも、税理士を辞めなくても良いのではと訊くと、
父親の希望で試験を受け続け、結果は免除で資格を取得。
資格を得たものの、父親の冷たい目は受け続けてきた。
そんな薄情な父親の職業を継ぐ気はないし、継がないことで報復ができる。
なんと、親子間の感情のもつれは修復不可能なのか、対応は不可能。
事務所自体は税理士法人に承継できたが、息子さんは宣言通り。
事務所の引き継ぎ業務が終わると、自らの身を退き、自由の身に。
親父さんはその後寝た切りとなり、70代後半の人生を終えた。
こんな辛いケースもあるんです。
事業承継の仕事をしていると、人生を考える様々な出会いがあります。
単純に事務所の引き継ぎを仲介していれば、良いわけでもないようです。
事業承継支援室長
大滝二三男