税理士事務所の職員の平均勤務年数は、それほど長くない。
所長との相性で、実力を遺憾なく発揮できる人もいる。
昔、経営者から「自分が、その職員は好きか嫌いだ」と言われた。
出版社での話だが、ゴマすりができない、私には堪えられなかった。
結果、7年あまりで事業部長の時に、辞表を叩きつけ、おさらばした。
そう、中小企業の経営者は一概には言えないものの、相性で判断する。
それを税理士に当てはめる訳ではないが、やはり同じではないだろうか。
そうなると、職員は所長の顔を窺いながら、仕事をする。
気に入られるように仕事をし、自らの立場を守ろうとするのは当然の事。
その一方で、税理士事務所の職員の場合、顧問先という強い見方がいる。
所長と合わない場合、時には顧問先の経理に転職できることもある。
しかし、そんな良いチャンスを掴むことができるのは、本の一部。
離職する多くの職員は、同じ業種・会計事務所に再就職する。
得意先を持っていくことも少なくないし、再就職先もそれを期待するだろう。
こんなことが起きる業界ゆえ、退職金がない事務所も多い。
もちろん、持っていかれるから退職金がないというのではない。
事務所に勤めながら、税理士試験に挑戦、合格後、独立。
そんな人が多い事務所では、退職金が支給されるまで勤めたくない。
いや、一日も早く試験に合格し、自分の城を築く夢を実現したい。
そう、退職金を払えるような事務所を作ることこそ、彼らの望み。
退職金制度があっても、一般企業と比較すると、その額は少ない。
一般的に給与そのものが少ないのが、税理士事務所の゛伝統゛。
個人事務所だから、小規模共済を30年以上積むのが、所長の退職金。
職員には最高で月3万円の中退金を積んで置くのが、制度として生きている。
でも、平均的には月5千円から1万円、10年積んで100万円、これで満足。
3年も勤務しないうちに辞めてしまう人が多く、その人は退職金ゼロ。
事業承継の際にこの退職金制度を引き継ぐかと言えば、それは皆無。
承継後の事務所に雇用されると、退職金規定は新人扱い。
旧事務所の退職金は、承継時点ですべて清算されるのが普通。
こうなると、年長者でも、それほど多くの退職金を手にすることはない。
地道にお金を貯めるしかないのが、税理士事務所の職員かもしれない。
顧問先の企業も経営に苦しみ、退職金がないところも多い。
そんな事情を知りすぎるほど知っている職員は、多くを望まないのかも。
もちろん、先生たちもそれを知っているのかもしれない。
事業承継支援室長
大滝二三男