ソフトバンクのオーナー経営者・孫正義社長が、引退を撤回した。
そのための一時は相思相愛だったインド人副社長は、辞職。
高額報酬で迎えた副社長に、60歳になったら、バトンタッチする予定。
だが、やっぱりまだ社長を続けたいと、あっさり方向転換。
パソコンソフトの卸売りから、世界企業を育て上げた、不世出の経営者。
そんな人が、60歳で辞めるとは誰もが信じなかった。
何故、辞めないことにしたのか、いわく、考えると寂しくなった。
そうだろう、会社に行けば、誰もが頭を垂れ、その指示に従う。
社長職を譲ってしまうと、次の社長に皆、右向け右となる。
その立場にあった人しか理解できない寂しさを、まだ受け入れられない。
企業の大小に関係なく、創業者であれば、皆同じ思いなのだろう。
後継者を育てない経営者も多いが、ひょっとすると合い通じることか。
翻って、税理士事務所の所長の立場を考える。
税理士の下で勉強し、資格を取得、その後自分の事務所を立ち上げる。
地縁血縁を頼りながらも、必死に営業に励み、職員も迎えることに。
夫婦二人で作り上げた事務所も、職員が家庭を持つようにもなる
所長の働きが、職員の家族をも、面倒を見なければならない。
自ら顧問先に足繁く通うことから、職員に任せる体制も出来上がる。
安定した経営を築き上げ、所長も豊かな一家団欒ができるようにもなる。
そして、子供たちも巣だって行き、引退の二文字がちらつく歳に。
しかし、税理士には定年はなく、元気であれば、年齢関係なし。
後継者がいなければ、何時までも仕事を続ける。
そんな税理士も引退を決意し、コンサル会社に相談する。
その際に決まって言われることに、やっぱり辞めるのは寂しいよ。
同業者と茶飲み話もできなくなる、やることがなくなってしまう。
さらに、趣味もないから、事務所に来ないときには何をすれば良いんだ。
もちろん、事業承継をしたからといって、仕事がなくなるわけではない。
そこが、ソフトバンクの孫社長と大きな違い。
辞めた後も、孫さんが仕事をしたら、会社は良い迷惑。会社は混乱する。
しかし、税理士は、同年代の社長たちの相談に乗ることができる。
同じ年代ならではの理解しやすいムードもあり、事務所も助かる。
そうこうするなかで、多くの先生が表舞台から去っていく。
今日から来てもらっては困るという、企業経営者との違いがある。
同じなのは、表舞台から降りる、その寂しさだろう。
事業承継支援室長
大滝二三男