所長は70代後半だが、独身を貫いていた。
そのため、親族には後継者候補もいなかった。
職員の中に、税理士試験3科目と4科目合格者がいた。
所長は、彼らの中から後継者を選ぶつもりだった。
しかし、残りの科目をいつ合格できるのか、はっきりしなかった。
そこで、勤務税理士をリクルートし、ひとまず後継者候補を確保。
資格を取得して間もない新人税理士は、法人税に弱いと認識。
所得税に関しては、それまでの経験で十分対応できていた。
そうこうしているうちに、所長が入院。先輩職員の指導を受けることに。
資格はなくとも、長年の経験で法人税を熟知し、資格者よりも練達していた。
素直に指導を受けようという新人に、ベテランは非常に冷たかった。
法人の顧客を担当させようとしなかったのだ。
所長に訴えようともしたが、それもできないうちに所長が死亡。
事務所承継を言われていた無資格職員は、新人税理士を後継に仕立てた。
しかし、自分たちが資格を取ったら、所長になると暗に臭わせる。
それから2年、所長になった新人税理士は、職員との暗闘が続いた。
稼いでいるのは我々で、所長は自分達が喰わせているんだというわけだ。
所長は事務所経営を辞めたいと訴えるが、職員が許さない。
こんな人がいるんですね。
実は、所長が辞めることができたのだ。
それは、意地の悪い先輩職員が、残り一科目をクリアしたのだ。
そう、登録のための判子をついたのも、辞めたがっていた優しい税理士。
自分達の稼ぎは自分達だけで分配できる、優しい所長さん、さようなら。
そうです、こんな事業承継もあるんですね。
もちろん、所長は退職金をもらえませんので、事務所の借金は新所長に。
それだけでも、まあ、いいか。そんな感じの優しい税理士でした。
事業承継支援室長
大滝二三男