個人が経営する税理士事務所の所長には、定年がない。
この定年という考え方は、サラリーマン社長でない中小企業の社長にもない。
経営者が自分で後継者を決めて引退する時が、定年となるわけだ。
資格ビジネスの税理士にとって、資格が取り消されない限り、定年はやってこない。
しかし、事務所に働く従業員には定年制を採っている事務所もある。
その年齢を60歳としながらも、実際にはすぐに退職させる事務所は少ない。
というのも、多くの事務所で退職金規定がないため、自動的に辞めさせにくいため。
また、ベテランの仕事を引き継ぐ若年層の職員も採用していないから、そうせざるを得ない。
任された仕事を指導なしで、十二分にこなしている職員を失うのは事務所にも損失。
仕事に支障が出るくらいの体調だとか、気力がなくなっていれば、定年も必要になる。
しかし、新人を所長自らが指導するには、所長自身も元気がなくなってもいる。
それだけに、ベテラン職員が自ら退職の意思を明らかにするまで、所長は沈黙を守る。
事務所内でも、ベテラン職員の業務を引き継ぐことに難色を示す職員もいる。
個々の職員が任された仕事だけで手一杯、他人の業務に手を出す余裕もない。
そんな体制にある事務所にとって、定年という考え方はなじまないようだ。
その一方、事務所がなくなる、つまり高齢の所長が事務所を閉めることも職員は考える。
後継者がいない事務所にとって、職員も高齢の所長のことを”見つめ”ざるを得ない。
自分の定年より、所長の”交代”あるいは事務所の閉鎖のほうが早くやってくる。
そんな事務所に勤務する職員には、当然定年よりも次の職場のほうに関心がある。
しかし、所長が80歳代になっても元気であれば、職員が定年を迎えることにもなる。
さすがに70歳を超えて業務を続ける職員は少ないが、これも定年で辞職するわけではない。
自らの体調などを考えて辞職するケースがほとんどだけに、定年制は必要ないのかも。
同時に今や若者がこない税理士業界にとって、ベテランの存在はなくてはならない。
定年制があっても、その年齢を大幅にアップする必要が出てきている事務所も少なくない。
事業承継支援室長
大滝二三男