税理士事務所に、所長の後継者として入所した若手税理士からの電話。
入所までは所長からしつこいくらいに「後継者として来てくれ」と言われ続けた。
そこで3年前に、後継者ならば決心し、職員6人ほどの事務所に入った。
担当も決められ、日々顧客回りなどこなし、古手の職員からも評価をされていた。
お客さんからも信頼を得て、新たな顧問先も紹介されるようにもなった。
後継者としてやるべきことはやってきたのだが、所長から後継者の話が出なくなった。
最近になって、所長から、「後継者は親戚の者が試験に受かったので、見直す」と言われた。
突然の話にびっくりするやら、あきれるやらで、対応に苦慮した結果の電話。
電話を受けた弊社担当者も、よくある話とは思ったが、そう簡単に答えは出せない。
いろいろ話をしたが、そんな所長の下で働き続けられないと、退職を決意。
損害賠償などを請求しても、口約束でも違反を認めないだろうし、払う気もないだろう。
親戚の者が試験に受かったというのも口実で、後継者を認めたくなかったのが本音かも。
長年築いてきた事務所を他人に渡す気になれなかったので、そんなウソを言ったのではないか。
電話の若手税理士は、退職後事務所のある地方都市から都会の税理士法人に移籍。
噂では、”うそつき税理士”の事務所には、親類の税理士は入っていないという。
また、実際に親戚の税理士が入所。並み居る古手職員を飛び越して、副所長とした事例もある。
職員たちより仕事はできないものの、税理士の看板を背負い、プライドだけは高い。
所長のバックがあるから、物言いも居丈高で、職員の評価は最悪。
そうこうするうちに相性のいい職員だけを引き連れて、飲みに行くことも増えた。
仕事もまともにできない副所長に、職員たちの間で不平が出るようになる。
対応に苦慮した所長も態度を改めるように言うが、親類ということで甘くなってしまう。
そのうち、増長することが激しくなってきたので、職員たちは所長に詰め寄った。
副所長を辞めさせるか、自分たちが辞めるかどっちを決めてもらいたいと。
結果、所長は職員の言い分を取り、副所長を辞めさせることにした。
こうなると、連れ立って飲み歩いていた職員たちは、事務所内で立場が悪くなった。
なんと自分たちの担当先をもっていき、その副所長を頭にした事務所を造ってしまった。
事務所にとっては大打撃だが、去る者は負わず、残った職員たちと今も事務所を継続。
そう、親類縁者だからといって、そう簡単に事務所を引き継げるわけではないのです。
事務所にはそれぞれ独特の風土・歴史がありますから、それを無視すれば、うまくいきません。
親子でも喧嘩別れする事例があります。
後継者を育てる苦労するより、すっぱりと他人に引き渡す方がいいのかもしれませんね。
事業承継支援室長
大滝二三男