中小零細企業で、社長の給与が職員の給与を下回ることはまずない。
どんなに高齢になろうと、他人である職員より安い給与では我慢がならないはず。
しかし、税理士事務所の場合は、高齢の先生の所得が、職員の給与より低額となることがある。
身内の職員がいる場合には、この例は顕著になる。
息子の給与を高くすることで、所長が間接的に孫の面倒を見ることにもなる。
自らは年齢的に高給を必要としないので、親の情として、当然の行為として、高い給与を支給する。
同時に、仕事そのものも任せられるようになっているので、のんびり構えることもできる。
それなりの評価をされれば、身内としても責任の重さを感じて、業務にも精を出す。
好循環となる。ただし、他人の職員との差別が明らかになるようでは、業務上支障をきたす。
身内の職員がいない場合でも、所長の所得が職員の給与の半分ほどといったケースもある。
40年も事務所を経営していると、職員の年齢も上がり、給与も年々上がっていた。
ここ数年は大したベースアップもできない状態が続いたが、それまでに高給となっていたものだ。
そのうえ、顧問先の事情に精通し、会計税務を知り尽くした職員だけに、すべてを任せっきり。
先生は、職員がまとめあげた決算書および税務申告書をチェックするだけ。
時にはメクラ判といったこともままあるほどに、職員の業務には全面的に委任することも。
そうなっていくうちに、若手の職員の給与も、業務内容をチェックし、同様にベースが上がっていく。
気が付いた時には、総務的な仕事に従事する女性職員にも、抜かれてしまうこともある。
私が仲介したケースでは、先生の取り分はほとんどなく、年金暮らしといったこともあった。
当然、それまでに資産も蓄え、子育ても当然終わり、孫の顔を見るのが一番の幸せ。
そんな生活で、どこに行くでもなく、日々の仕事を繰り返しているので、それほど収入は必要なし。
仙人のような暮らしだが、このような先生の事務所は、職員は女性一人といったケースが多い。
事務所も事業承継は行われず、自然消滅の形で、幕が引かれる。
しかし、数名の職員を抱えた場合は、やはり、事業承継をしないと、職員が路頭に迷うことになる。
引き受ける側としては、労働分配率が異常になっているので、引継ぎに苦労する。
そんな例が、高齢の所長が経営する事務所に見受けられるので、事業承継には注意が必要だ。
事業承継支援室長
大滝二三男