税理士の契約は、一身専属という特殊な資格ですから、その資格者の死亡で契約の効力はなくなります。
税理士であれば、このことは誰でも知っていますから、お仲間の死亡で、ここぞとばかりに営業に走る人も。
現実に、当支援室が仲介した事案で、その地域で一番の医療法人に長年営業をしていた税理士がいました。
お医者様、しかも大きな病院の院長ともなれば、地元の有力者であり、高額納税者でもあります。
今でこそ、長者番付が公表されず、大衆の目が届かないところですが、地方の財界では、注目の的。
その医療法人のグループを顧問契約を獲得すれば、税理士事務所が1年安泰というところもあるほど。
ロータリーやライオンズといった地域の有力どころが集まるところでは、”主役”でもある人が多い。
それだけに、営業の格好の標的なのだが、そこには長年顧問をしている税理士がいる。
医療法人の内部をよく知り、経理担当者ともツーカーの間柄だけに、その隙間を突くのはなかなか難しい。
しかし、顧問の税理士が死亡したということであれば、話は別。
先生の死亡とともに、顧問先との契約は消え去っているので、誰が営業しても法律には触れない。
なかには、先生が死亡したのを機会に、お客さんとともに他の事務所に転職してしまう職員もいる。
それもこれも、法律上はだれも文句を言うことはできない。たとえ、先生の家族であってもできない相談。
昨日も、そんな電話がありました。
「亡くなったばかりで、事務所のことを考えられなかった。これからどうしたらいいのだろうか?」という。
「もちろん、税務署に提出する申告書などは、新しい先生の判が必要。それも十分分かっています」という。
だから、事務所を任せる先生とは話がついたのだが、事務所に赴任するにはまだまだ時間がかかる。
その間の業務をどのようにこなしていけばいいのか?
しかも、事務所の体制を再構築するには、それなりの時間がかかる。
職員の雇用問題などもしっかり解決しなければならないし、後継者との調整もある。
万全の態勢を敷きたいので、遺族がこのまま主導的な立場で、事務処理をしていけるのだろうか。
もちろん、ニセ税理士行為をする気もないし、一日でも早く後任の税理士に任せたい。
とはいうものの、これまでの経営を新しい税理士に移行するには、それなりの契約も必要。
それらをすべてクリアするための時間は、遺族には与えられていない。
税理士会の役員からも早く処理するように言われるのだが、どうしたらいいのでしょう。
実に切実な話ですが、これが現実ですね。
長患いをしていた先生であれば、それなりの対策はできたのでしょうが、そうならないのが圧倒的に多い。
後任の税理士が一日でも不在であれば、ニセ税理士行為を咎める声は確かに出てくる。
世知辛い昨今のこと、対策をしっかり立てておくことこそ、所長税理士としての心構え。
遺される家族に心配の種を残すこと、これはいけません。
事業承継支援室長
大滝二三男