後継者がいなくて頭を悩ます税理士が多い中で、幸い職員が資格を取得し、跡は安心と胸を撫で下ろした所長の思惑をぶち壊す職員の迷い。
職員が税理士に
相談があったのは、最近資格を取得した税理士事務所に勤務し、その勤務歴は10年で所長の信頼も厚い職員からで、日頃から資格を取れば任せると言われてきた。
所長も70代半ばで、そろそろ引退時期だと感じ、職員が試験に合格することを条件に跡を任せると、ここ数年家族にも言い続けてきた。
中でも一番信頼していた職員が、一昨年の試験で5科目をクリアしすぐにも登録すると見ていたが、なぜかなかなか登録しない状況が続いた。
跡を継がせ、自分は早く引退したいと、税理士登録を早くするよう急かせていたが、この確定申告前にやっと登録を終え、所長は今年中が最後の確申と決意した。
引き継ぐ自信がない…
ところが、登録後確定申告を前に、新税理士から跡を継ぐ意思はないと言われ、所長は「なぜだ」と声を荒げて問い詰めたが、答えは「自信がありません」の一言。
所長は自らの開業時の話をし、当初はやっていく自信はなかったが、仕事を続けるうちに徐々に自信もついてきたので、心配することはないと説得を続けた。
申告が始まってからは承継の話はストップしていたが、その税理士から当支援室に「事務所を継ぎたくないが、どうしたらいいのか?」と相談が入った。
黙っていても事務所を手に入れることができる、なんと羨ましいと話すと、全く自信がなく、自分は経営者ではなく、サラリーマンの方が向いていると自己を分析。
申告終了後辞めてしまえば、この話は終わるのだが、これまでお世話になった所長に何も言わず、背を向ける訳にはいかないので、悩んでいるというのだ。
これには相談を受けた当方も、短絡的な答えを出すのは避け、確定申告が終わってから慎重に対応することを告げ、状況把握に努めることとした。
これまでも、跡を継ぎたくないとの相談を受けたことはあるが、そのほとんどが辞める決意を後押しされることを期待してのものだった。
贅沢な悩み
今回は事務所に何ら問題はなく、所長にも信頼を置き、その所長の下で日々努力し、自らも力をつけ、恩を仇で返すわけにはいかないが、自信がない。
何ともやりきれないが、他業種では若い起業家が次々に飛び出ているが、税理士業界では新規開業が非常に厳しい中で、こんな贅沢な悩みも何故か納得できるのだ。