後継者難のこの時代、親の期待を背に、難関の税理士試験を見事通過してきた人々は幸せ者。
というよりも、自らの血族から、事務所の後継者候補を出せた親の税理士ほど幸せ者はない。
そんなことを言う人がいる。
先日お会いした親子税理士にその話をすると、「そうだ、親父、俺は親孝行したんだ」と胸を張る。
父親の先生は、「そうかな?」と笑顔で笑っていたが、確かに後継者に悩む人に比べたら…
その事務所は親子で税理士法人を設立し、別個の事務所で日々の業務を行っている。
そのため、日常業務は事務所単位。二人とも”司令官”としての責務を果たしている。
それだけに、日頃の事務所経営は干渉することもなく、収支も独自に計算。
金庫のカギは双方が持っているので、こちらも混乱することがなく、理想的。
もちろん、親から見て、注意すべきことはしっかりとアドヴァイスをしている。
こんな例は少ないが、親子で事務所を経営するものの、実印と金庫は親が握っている例も。
90歳を超えた親と団塊の世代の息子、職員にはもう数年前に「代表は息子」と宣言。
息子の税理士もその気でいたが、いつまで経っても、実印と金庫のカギは渡されぬまま。
判子と鍵がなければ、単なる”前線の指揮官”。事務所のお金をいじれないわけだから悩みは深刻。
職員への指導力にも”陰り”が見える。
「いつまで経っても認めららない先生がかわいそう!」といった影の声もあるようだ。
しかし、鍵や判子ばかりでなく、実際の経営にも口を入れさせない80を超えた猛烈親父も。
「俺の言うことを聴け!まだ所長椅子はわたさない」とはっきりと職員にも宣言しているその先生。
2年ばかり息子さんも一緒に仕事をしていたが、いつまで経っても”後継者のまま”についに切れた。
「もう付き合いきれない」と事務所を離れて独立。
その後もごたごたし、最終的には”親子の縁”を切るまでになってしまった。
ここまで来ると、子供が後継者の資格を手に入れたと言って、即親孝行かといえば、疑問が出てくる。
なかには、子供が資格を取ったが、事務所は継がないということで、当方が仲介したのも数例ある。
やはり、個人事業の様相が濃い税理士業務を親子だかといって、一緒にはできないものなのか。
でも、親子で経営するハッピーな事務所の方が、仲違いする親子より多い。
”血は水より濃い”、その通り。
事業承継支援室長
大滝二三男