税理士さんの仕事は、会計処理と税務申告がメイン。サービスとして、お客さんの資産管理を併せて行っている事務所もあるが、それは例外に等しい。
今回の年金を預かっていたAIJという投資顧問会社について、詳しく情報を集めている先生も少ないはず。公認会けしであれば財務もみるので、ひょっとすると”怪しい”と感じていた人もいるかもしれない。
一部の格付け会社では、あまりの高額な投資利益を毎年計上していることに、危険信号を出していたというが、これが大手でなく、そして専門家でなければ見ないような状況だったのが、不幸の始まりだ。
AIJは預かった資金をタックスヘイブンのケイマン諸島などの金融機関を通じて、ファンドに投資していたというが、そもそもタックスヘイブンのこの島に業務を行っている金融機関など存在していないという。
『タックスヘイブンの闇』(ニコラス・ジャクソン著、朝日新聞出版刊)を読むと、世界中の富がこれらのタックスヘイブンに流れ込んでいるが、その実質的な”支配者”はロンドンのシティーだという。
しかも、タックスヘイブンを目の敵としているアメリカだが、世界一のタックスヘイブンがマンハッタン島であり、デラウエア州もまた世界の多国籍企業の本社があり、ロンドンの独立都市・シティーとその覇権を競って成長してきた。
わけのわからない日本人には、ケイマンやマン島そして香港などをタックスヘイブンの”本場”と見ているのは、とんだお門違い。実は米英の金融の中心地こそが、タックスヘイブンの本家本元だというわけ。
ということになれば、AIJが預けたというケイマンを調査したところで、その投資した資金は出てくるはずがない。もうすでに、米英のタックスヘイブンに”しっかりと”吸収されて、溶けてしまっているだろうと想像できる。
こんな怖いところに預けるような話を相談されて、即答できる税理士さんは幸いなことにほとんどいないだろう。国際金融の専門家でも、明確にリスクを避けて投資を勧められる人はどうでしょう、いるのでしょうか?
日本の富裕層が、このAIJの無様な”大失敗”、それとも”詐欺”を見て、果たしてタックスヘイブンにその資金をトスし売り間の流れを止めることができるのだろうか。
今回の年金資金をAIJに預ける決断をしたのは、年金基金の理事者たちだろうが、その資金は労働者と企業が出し合った資金だけに、少々危険と思っても、他人のお金という意識があったので脇が甘くなったのではないか。
自分のお金を海外に出す富裕層は、そこのところは慎重であるだけに、顧問税理士の意見を聞く人たちも多いと思われる。そこを慎重に調査をして答えを出すことのできる、いや答えを出す人はそんなにいないはず。
ひょっとすると、タックスヘイブンにいる投資アドバイザーの受け売りをして、お客さんとともに資金を海外に持って税理士さんもいるだろうし、5,6年前から投資ツアーをやっている税理士さんもいるが、大丈夫だろうか。
そんな心配がAIJの話から、業界にも波及しているのも事実だ。しっかりした相談できる金融機関が身近にないと、この低金利でもしようがない。安心だけが頼りだという話になってしまうのだろうか。
語学に弱い日本人、日本語の目論見書なども読むのが面倒だから営業マンの言うとおりにし、失敗した時は”自己責任”を甘受するしかない。いわんや、英語の目論見書、そして申込書など手にも取らない。
こうなってくると、投資顧問会社の言いなり、すべてのリスクは自己責任。今回はひょっとすると、詐欺になるかもしれないが、そもそもお金が存在しないのだから、取り返そうとしても取り返せない。年金が消えた!!で、終わりか。
事業承継支援室長
大滝二三男
税理