サラリーマンであれば、転職ということが付き物ですが、税理士事務所の経営者となった税理士さんに転職は考えられません。もちろん、勤務税理士には勤務する事務所もしくは税理士法人からの移籍は当然あります。
常に、どんな職場に行っても税理士という資格者として、会計税務の仕事をするわけですから、転職といった形にでは少々異なっているような気もします。
サラリーマンには定年といった形で、年齢により自動的に職場を離れなければならない時があります。個人の希望を無視した形で、”無理やり”職場から”追放”されますので、対象年齢になれば仕方ないと諦めもつきます。
ところが、税理士や公認会計士、弁護士などの自由業は、まさにその名のとおり、自らが決意して初めて、自由のみにもなります。定年は自らが決めるわけですよね。
その時期を迎えた税理士たちが、弊社に相談に訪れるわけです。転職経験のない方々ですから、社会的な常識が通じないところも間々あります。
つまり、事業を承継した後も自分の事務所であると考え続け、承継先の職員とぶつかったり、以前からの職員に対しても、所長として文句を言ったり、けじめが分かりません。
契約書では、経営権や人事権さらに賃金等に関する決定権は、承継先が承継し、譲り渡した先生にはそのような権利は一切なくなっているのですが、この点がなかかな心情的にもご理解いただけないケースがあります。
やはり、先生が30年、40年と経営を一定に行ってきたものを、一通の契約書で、その慣習から離れなくてはならないとなると、これはまた大変な作業です。その一番が心の問題です。
一般のサラリーマンでも、特に税務署職員が定年を迎え、毎日が”日曜日”となったときに自らの処し方が分からず、ついつい家人と諍いを起こすことが多くなるともいわれています。
それに比べ、数十年も経営者として”君臨”していた税理士事務所長がある日以後、普通の人になってしまうわけですから、その心理的な葛藤は計り知れないものがあります。
それも、最初で最後の引継ぎですから、想像を絶する葛藤があると思います。でも、その葛藤のなかに自らをおいたのも所長の判断ですから、腹が決まった税理士さんは見事に引継ぎを行い、職員も新たな事務所で、希望に満ちた会計事務所生活を送っています。職員の方々の不安も、先生が解消してくれたわけです。
事業承継支援室長
大滝二三男