今回の裁判は、死亡した税理士の事業承継で、その相続人が対価の支払いを請求し、争いとなった。
顧問先を引き継いだ税理士法人は、故人から事業承継を依頼されたことはないと主張。
事実、故人とA税理士が面会したのは、死亡する前日。
その際、酸素吸入器を着けた故人は、「今後のこと、事務所のことを頼む」という趣旨の発言をした。
これに対して、被告であるA税理士は「わかりました」と答えたという。
原告の父である税理士が死亡後、被告である税理士は事務所を承継し、自分の事務所と統合。
故人の顧客だった法人・個人合わせ80件を承継したが、故人の相続人には対価は支払わなかった。
そこで、原告である故人の相続人は、承継の対価として年商相当額4000万円余を支払うよう提訴。
裁判所は、故人と被告との間で、事業承継の依頼の意思表示をできる状態ではなかったと判断。
さらに、通常税理士の死亡に伴い顧問先との委任契約は終了すること。
法的には、事業を承継したからといって、対価を請求できるようになるとは認めがたいと判断。
その一方で、故人から包括的に顧客の引継ぎが行われ、顧客との間で顧問契約が結ばれたとも考えられる。
このような場合に委任契約の性質に拘って、営業権の対価が一切発生しないとするのは相当でない。
従って事案によっては、営業権の対価の発生を認める余地があるとした。
これまでの裁判では、いわゆるのれん代、営業権は認められなかったが、今回は一部これを認めた。
税務上も税理士の事業承継の対価は、営業権の対価ではなく、顧客の紹介料として雑所得の判断。
今回の判決が確定すれば、のれん代が認められることになり、課税問題に影響するだろう。
なお、この裁判では、原告の請求は4000万円余としたが、判決ではその対価を300万円と認定。
この対価全額がのれん代か否かは定かではないが、画期的な判決になる可能性もある。
事業承継の仲介者としては、死亡後の承継は難しくなるので、元気なうちに話をまとめること。
そうすれば、裁判になることもなく、遺族もそれなりの金員を手にできるので、喜ばれるだろう。
なお、この裁判は双方が不服として控訴しているので、結論はまだ出ていない。
この事例は、TAmaster 2017年11月20日号特集記事 「地裁、顧問先を承継した税理士法人に
対価の支払い命ず」を基にまとめました。詳細については、同号を参照ください。
事業承継・M&A支援室長
大滝二三男