高齢の税理士が経営する事務所では、長年勤務した職員が退職すると途端に仕事が回らなくなる。
というのも、後任の職員がなかなか見つからず、パートも雇えない状況に陥る。
先だっても、マンションの一室の事務所に、高齢の先生をお訪ねした。
数か月前まで50代の女性事務所員がおり、月次や決算業務をこなしていた。
しかし、家族の介護で手が離せなくなり、やむなく退職。
その後任を派遣業者などに依頼したが、税務会計に詳しい人材は皆無。
しかも、人材会社の職員から、最近の女性はマンションの一室での仕事に来たがらないという。
知人などにも声をかけているが見つからず、あきらめかけてもいた。
そんな時、ひょんなことからオールドボーイが現れた。
かつて会計事務所で外回りなどを経験し、定年になりふらふらしていたという。
履歴書を見ると、確かに名のある事務所に勤務し、仕事もできることを確認。
ひとまず、時間給の職員として、事務所内での仕事を担当させた。
それにより、高齢の先生はお客回り、記帳代行は専ら”新人”任せになり、一安心。
ところが、仕事が回りだすと、そのオールドボーイ、仕事に口を挟むようになった。
いわく、こんな狭い事務所に一日中いると息が詰まるので、外回りがしたい。
併せて、記帳代行だけでは面白くないので、何とか1,2件担当をくれないかというのだ。
若い職員で税理士試験を受けようという人なら、後継を考え、外回りもいいかと考える。
しかし、前期高齢者に首を突っ込んでいるオールドボーイに任せる気はしない。
それこそ顧問先から自身の健康問題などをそれとなく言われてきた所長も、慎重になる。
だが、外回りは長年自分でやってきたので、任せるわけにはいかないと明言。
その一言があってから、オールドボーイは口数が少なくなり、数週間後に退職していった。
そんな状況で、当支援室に相談があり、お客の大半を若手税理士に譲ることになった。
もし、記帳業務を担当する人がいれば、顧客をを譲ることなく、当支援室に相談もなかっただろう。
幸い引き受け手が見つかり、先生は相談業務だけの仕事を続けることになった。
人手不足と高齢、今回はこんな状況に税理士がまだまだいるのではないかと推測される事例だった。
事業承継・M&A支援室長
大滝二三男