お医者さんを多く抱える税理士事務所は、景気に左右されにくい。
その利点を求めて、クライアント探しに薬品商社と手を組む。
新規開業を一手に引き受ける商社から、顧問として紹介してもらう。
商社の担当者と意志の疎通ができるか、できないかによって、結果は変わる。
そんなルートを多く持っていた税理士事務所が、この20年大きく成長した。
全国各地に医療に特化した事務所が、地域一番店にもなっている。
医療関連の企業グループを営む医師も、税理士から経営情報を得ている。
それにより、業務を拡大することを可能にしているケースもある。
それだけにドクターと税理士が深い絆で結ばれ、他から干渉されない。
なかには、日常の経理業務から請求業務までも請け負ってい税理士もいる。
こうなると、まさに入出金のすべてを税理士事務所が担当している状態。
金融機関との交渉も税理士が行うほど、ドクターの信頼を得ていた。
ところが、ある日税理士の体調に異変があり、顧問先には休養と伝えた。
もちろん、税理士事務所の慣れた職員が、日常業務はこなした。
体調が良くならない税理士は、地域を代表する大学附属病院で受診。
その結果、不治の病が見つかり、それも猶予できる状態ではなかった。
顧問先のドクターには、体調を整えるために暫く休養すると再度報告。
ところが、一月も経たないうちに税理士は逝ってしまった。
その時点で、事業承継の話が進み、契約も終えていた。
しかし、税理士の死亡を聞いたドクターは怒り心頭。
自分の診察も受けず、本当の病状を知らされなかった、怒るのは当然。
感情的にも、顧問契約を打ち切ることも考えた筈。
地元でも有力なドクターで、優良企業グループの経営者でもあった。
それだけに、日頃から他の税理士が営業をかけていたという。
承継した先生も必死で、遺族とともにドクターを訪問。
誠意をもって話し、慣れた職員全員を雇用し、変わらぬサービスを確約。
その結果を顧問契約は継続し、遺族はもちろん、承継者は一安心。
こんな異常なケースもあるのが、事業承継仲介の現場です。
事業承継支援室長
大滝二三男