実は半端ではありません。
職員が銀行印も管理し、給料支給の際の判も番頭さんが捺している。
嘘でしょう、と質してみると、先生は「そうだよ」の答え。
そのことで、なにか問題があるのかといった感じ。
先生は高齢で、面倒なことは職員任せ。
事務所が問題なく、回っていけば良い、そんな考えの所長さん。
でも、税理士事務所の常識を大幅に逸脱しています。
というより、経営者と労働者という枠組みを大幅に越えているんですね。
先生は経営者の責任を果たさず、職員はそれを良いことにしたい放題。
なんと、給与やボーナスも所長の判断を仰がず、番頭さんが決めている。
昨年暮れのボーナスも、業績が落ちたが、前年より増えていたという。
同僚の職員にとっては、実に良い番頭さんで、所長以上の存在。
そんな事務所にも、事業承継の日がやって来た。
先生に認知症の徴候が出て、税務判断もおぼつかなくなったのだ。
職員の生活に重きを置き、給与も業界の平均より高く支給してきた。
だから、この数年業績は下がっていたが、ベースアップはした。
しかも、その判断の下支えしたのが、一番古手の番頭さん。
もちろん、給与も一番で、なんと先生の所得より格段に多い。
先生はお子さんたちも定年を迎えるほどなので、お金は必要ない。
そんな状況のなか、先生も引退を考えるようになった。
一番の古手職員もこの事を察知し、自らの雇用を考え、動き出した。
そこには先生の居場所はない、そんなアイディアを堂々と主張する。
同僚たちには、自分の言う通りに動けば、雇用は守れるとも言う。
ここまでの話で、読まれた人はきっと、嘘でしょう、というはずです。
でも、事実です。こんな怖い、嘘みたいな話があるんですね。
多分、この職員がいなければ、事務所を引き受ける人もいるでしょう。
今後、この事務所がどうなるのはわかりませんが、これは大変ですね。
職員に優しかった先生でもっていた事務所が、なくなってしまう。
何とか先生の歴史を引き継いでくれる人がいることを。
そして、野望のない職員たちの雇用が守られることを願うばかりです。
事業承継支援室長
大滝二三男