数十年かけて作り上げた税理士事務所だが、後継者がいない。
自分の息子・娘は、他の仕事に就き、税理士には見向きもしない。
事務所の職員の中には、試験に合格し、独立していった者もいた。
自分が中年で血気盛んなころには、彼らが独立することを大いに薦めた。
自分の事務所に二人も税理士はいらない。
職員が自分以外の勤務税理士に相談し、その方が正解だったなんて考えたくもない。
トップに立つ自分がお山に大将で、それを脅かす人はいらないし、排除する。
そんなことが数十年、後ろを振り返ると、職員も高齢化し、コストパフォーマンスは最悪。
そこで、事業承継を考え、最適といわれる人を紹介されたのだが、不安は募る。
自分は一日中顧問先のことを考え、平日は夜も酒も飲まずに待機した。
お客さんがいつ何時、どんな相談を持ってくる分からないし、酔っぱらっていたでは信用にもかかわる。
今は時代は変わったというのだが、自分の心構えは変わらず、ここ数十年同じ対応。
そんな自分の事務所を他人に渡すわけだが、その人の生まれ育ちも十分には分からない。
今となっては、試験に合格した職員で、貴のいい若者を育てておけばよかったと思うのだが。
しかし、現実はまるで違う。自分の手法をそのまま受け継いでくれるのかどうか。
お客さんには、自分と同じように時間を問わず対応できるのだろうか。
そんな無理なことは言うべきでないと妻から言われるが、心配でしょうがない。
そんなこんなを考えると、不安だけが倍増し、引き渡すこともできなくなりそう。
そう、腹を決めるしかありません。
所詮、別人格の他人が承継するわけですから、同じことができるわけありません。
任せたら、あとは一切ノーコメント。任せましょう。
上手くできるかどうか、優先することはお客さんに十分なサービスが提供できるかどうかです。
覚悟はできているはずです。
そのためにもそれなりの金銭を使ったわけですから、失敗は許されません。
ご安心ください。たぶん、先生も同じようにみられていたハズです。
事業承継支援室長
大滝二三男