税理士さんが高齢で、日ごろの業務は職員任せにしている事務所があります。
今年初めにお会いしたある地方の先生の場合、事務所内で面談しました。
職員には、私の肩書などがすでに話されており、応接室での声も聞こえていたと思います。
先生は事務所経営40数年の大ベテラン、後継者となるお子さんもいません。
夫婦二人の人生ですので、事務所の職員がお子さん代わりだったのかもしれません。
そこでお考えになったのは、自分にもしものことがあった場合には、職員が路頭に迷うという懸念。
元気なうちに、後継者を見つけようとはしたが、それも果たせず、弊社への相談となった。
事務所の経営内容を見ると、労働分配率はなんと80%以上。先生の所得はごくわずか。
個々の職員の給与を見ると、顧問先から受け取る報酬とほとんど変わらない人も。
先生は、奥さんと二人が生きていけるだけの十分な資産は、すでに蓄えている。
それだけに、職員への給与を十分すぎるくらいのものを支給してきた。
ところが、後継の先生には、この高額な職員の給与があまりにも大きな負担。
職員も後継の先生が、これまでの給与を下げるようであれば、承継に反対という姿勢。
甘やかされてきたことには、ほとんど自省することなく、現状を維持するように要求。
これには承継する先生も、口をあんぐりで、採算が取れないと早々に撤退。
何とか、説得しようとする先生に、「お元気なんだから、まだ大丈夫ですよ!がんばりましょう」
定年という概念がない税理士稼業だが、辞めさせてもらえない先生もお気の毒。
職員には十分給与を支給してきたのだが、まさか”最終章”で躓くとは思いもしなかったこと。
我々もよく言われたもので、「自分の給与の三倍は稼げ」と。
人件費がコストの大半を占める税理士事務所だが、顧問料収入と給与が同額?
職員も年功序列式の給与体系をとっているのが普通だから、ひょっとするとそんなこともありか。
なかには、所長の所得が、職員の給与の三分の一にも満たない事務所もあります。
これでは事務所経営はやっていけませんね。特に承継するのは不可能に違いありません。
職員さんたちと話をする際にも、同じことを言うのですが、そんな時は顔を背けています。
そして、うるさく言う人ほど、いざというときには、「承継には反対です」と主張します。
そして、所長が自分の考えを押し通すとき、事務所を去っていくのも、こういう人です。
しかも、お客さんを持って行ってしまうのも、こういう人が多いようです。
所長さん、事務所経営を職員任せにしてきた、その報いがこのような形になるようですね。
事業承継支援室長
大滝二三男