個人の税理士事務所の場合、所長が長期にわたって不在になるのは、大問題。
お客さんも不安になるだろうが、それ以上に職員にとっては気が気でない。
所長にもしものことがあれば、事務所が消滅するのだから、収入の道も閉ざされる。
所長の家族は、早い時期に復帰すると言うであろうが、職員の不安は募るばかり。
また確定申告を直前にして、所長がいないとなれば、だれがハンコを押すのかこれまた不安。
緊急事態の時には、それなりの猶予規定があるが、だれが申告の責任を負うのか。
事務所に勤務する税理士がいる場合でも、勤務税理士は多分責任を取ろうとはしないだろう。
その不安が職員にまさかの行動をとらせることにもあるケースがある。
お客さんは先生のお客さんではあるが、日頃付き合っているのは資格のない職員が圧倒的。
お客さんも先生以上にその職員を信頼していることもある。
まさに、職員を「○○先生」と呼んで、下にも置かない接遇をする。
こうなると、担当の職員も先生にもしものことがあっても、自分についてくると錯覚をする。
これが、お客さんを持ち逃げする典型的なパターンで、他の事務所にお土産付きで移籍する。
先生の信頼が厚い職員ほど、良いお客さんを待たせてもらっていることも多いのも事実。
それが自信過剰になって、事務所の屋台骨を背負っていると思い違いをすることになる。
そんな職員が資格もないのに、独立しようとするから話はややっこしい。
数年前の事例になるが、先生に不服を持つ職員が数名つるんで、お客を持ち逃げしたことがある。
お客さんの4割強に逃げられ、大打撃を蒙った先生だが、その痛手は事業よりも精神的なものだった。
その後、現場に復帰した先生はその痛手からやや持ち直し、事業承継後も現場で頑張っている。
それも残った職員が先生を信頼し、共に頑張ろうという姿勢を保てたから、できたこと。
持ち逃げした職員たちは、会計法人を立ち上げ、若い税理士に税務を依頼する体制を作り上げた。
いわゆる記帳代行会社は資格がなくてもできるので、こちらは法的には何ら問題はない。
ただし、税務相談や税務申告書まで作れば、これは脱法行為になるので、お縄頂戴となる。
しかし、その実態を税務署がしっかりつかんでいるかと言えば、はなはだ心もとない。
いずれにしても、長期不在を続けることは、所長の家族にも職員にも、決していいことではない。
事業承継支援室長
大滝二三男