ある地方の有力な税理士事務所の経営者が亡くなりました。
奥さんと息子さんもその事務所に勤めており、いわば家業としての税理士事務所経営でした。
所長はその地方の有力者であり、税理士事務所経営の成功者としても、認められていました。
息子さんは大学を卒業後、税理士試験に挑戦し続けましたが、結果はいけません。
父親である税理士が80歳近くまで、陣頭指揮で事務所経営を続けざるを得ませんでした。
高齢とともに持病があり、それほど長患いせずに所長はこの世を去りました。
資格ビジネスの残酷な所で、”家業”と思っていても、一般の中小企業のようにはいきません。
税理士の死亡とともに事業承継に舵を切れば、簡単に承継者を探すことができました。
しかし、資格のない息子も経営者になることはできず、”家業”も継続できません。
そこで、どんな手を使ったかというと、国税OBの税理士に継いでもらうこととしたわけです。
継いでもらうというのは対外的なこと。実は経営そのものは自分たちものだというのです。
経営の実権を持てば、収入は家族で確保でき、その一部を税理士に分配する形になります。
事実、このケースでは税理士に”給与”を払っていました。
しかし、名義貸しをするわけにはいきませんから、国税OBも経営を任せるように要請。
名義貸し状態から脱皮し、本来の税理士事務所としての体制にすべきだ主張した。
そこでゴタゴタし、父親が死亡してからこの3年、実に3人の国税OBが事務所に”就職”しました。
大きな事務所だけに、所長の遺族が経営の実権を渡したがらないのも分からないわけではありません。
でも、やはり資格ビジネスですから、何時かはこの問題を解決するしか、脱出方法はありません。
事務所の名前が毎年のように変わるわけですが、心ある顧問先はすでに離れて行っています。
年々、その数も増え、その地域では誰もが事務所の変質ぶりが分かっているようです。
創業経営者である税理士がなくなって3年も経ちながら、いまだに落ち着かない事務所経営。
混迷状態から脱出するためには、遺族が腹を決め、事業承継をするしか手はないでしょう。
こんな事務所が実に多いのです。これも”家業”のなせる業でしょうね。
事業承継支援室長
大滝二三男