5年ほど前に「事務所を譲りたい!」と、ある地方の税理士さんから連絡があった。
早速、アポを取り、県庁所在地位ある事務所を訪問した。
3階建てのビルの一階は駐車場、2階が事務室で、3階に所長室がある。
所長室に通されたが、その本棚にはここ10年ほどの専門書が納められ、読まれている様子はない。
広い室内には、様々な書類や人形、ゴルフのカップなどが雑然と置かれ、落ち着かない雰囲気。
そこに現れた70歳後半の小柄な先生、最初に出ていた言葉が、「いくらで売れるのかね。」
事務所の内容や顧問先情報など明かされない状況で、その質問には答えられない。
そこで、売り上げなどを聞くと、おおざっぱな金額をいう。
当時は、承継の対価も売上金額に近い金額で契約で来ていたので、その金額を回答。
「それでは、引き受け手を探してください」と、いとも簡単にいう。
単純に売上金額だけで査定はできないので、青色決算書、顧問料収入の内訳などの資料を要求。
確定申告書には不動産所得などもあるので、税理士事務所の決算が分かるものだあればよしとした。
それでも、すぐには出せないので、追って送るということになった。ここまではごく普通の展開。
弊支援室では、事務所の査定に当たり、職員構成やその給与なども参考にするので、その資料も要求。
数日後に届いた物は、青色決算書のみ。確かに給与総額は分かっても、その内容は分からない。
それでも、弊支援室との間で、アドバイザリー契約を締結しているので、交渉を一歩進めることに。
地元の有力事務所に名前等も一切分からない形で、譲り受ける気があるかどうかを打診。
突然の話であったが快く受けてくれた。そこで、数日後に両者面談の運び。
会ってみれば双方名前は知っており、ただ事務所の内容は双方とも分からない。
その場で双方の事務所情報を交換し、交渉を続けことで初回の面談は終了。
次の段階で、譲り手側から、顧問先のからの顧問料収入の状況など分かる資料を提供するよう促がした。
そこで返ってきた答えが「決算書も出して売り上げが分かているから、詳細の資料はいらないでしょう」
決算書だけで事務所の実態をつかむことなど不可能。
事務所を承継する際に、職員も移籍するわけだから、職員の業務内容なども把握する必要がある。
そこで、職員構成などを聞いてみると、ほとんどが60代のベテランぞろい。
そのベテランたちはここ数十年、担当を一切代わっていない。つまり、みんな自分のお客さん。
なかには、所長が死亡し、お客さんとともにこの事務所に移ってきた職員も数人いた。
まさにお客さんを持って、事務所を転々とする輩もいる始末。
そんな職員から顧問先情報を提供させることもできず、資料を提供することを拒否。
弊支援室ではこの話を一時ストップし、所長の考えが変わることを待った。
しかし、漏れ聞けてくる話は良い話はなし。税務署の指導を受けたという情報も。
税理士として職員を指導すべきところ、それが行われていないといった、まさにブラック。
職員が勝手に申告書などを作成し、先生は判を押すだけ、顧問料をピンハネしていただけか。
そんな情報を耳にした後に、所長から「引き受けてもらえないだろうか?」、といった電話連絡。
正確な資料などを提示し、相手の先生が了解すれば、交渉は再開できると説得。
しかし、この要求を再度拒否。「ほかの先生でもいいのだが、」 頓珍漢な返事にはあきれるだけ。
この交渉が数か月後不発に終わったが、実は昨年にも同じ内容の電話が来た。当方は拒否。
そして、今年、その事務所が崩壊したことが判明。
職員はすべて他の事務所にお客を持って移ってしまった。
移った先でも、彼らは自分の客だとしか思っていないだろう、移籍先では果たしてどうなるのやら。
これほどひどい例は、いまだかつてない。
事業承継支援室長
大滝二三男