企業を作り上げた創業者は誰でも、その会社から自らがいなくなったことを想像しにくいもの。
自分なしで企業が成り立たないと考えるのが、普通の経営者。
その一方で、30年以上も経営者として君臨できることは、上場企業では考えられない。
それほど社会の様変わりは激しい。
ところが、わが税理士業界では、これが普通の事のようになっている。
一人親方企業の典型的な例だ。
税法は毎年変わり、それに付き合っていくには相当”やわらか頭を”持っていないといけない。
しかし、それなりの歳になれば、新しい情報は入りにくくなってくるのは、人間の人間であるところ。
それをどのように解決するかは、各事務所経営者が頭を悩ますところ。
その経営者が自分が作り上げた事務所の”作法”を変えることは、ほとんどできないのが普通。
そのやり方が時代遅れになっていても、絶対君主の所長のやり方を、職員はノーとは言えない。
しかも、税理士事務所の雇用形態は至極簡単で、所長がノーと言えば、翌日から職員は”職なしに”。
労働基準法で守られているというものの、果たしてその通りかといえば、これまたノー。
経営者の指導方針に従わなければ、有無を言わさず、”退場”の宣告が行われる。
しかし、歳をとっても、やはり自ら作り上げた事務所を他人に渡すとなると、心は揺らぐ。
契約しても、揺らいだ心を落ち着けるには時間がかかる。
そんな状況で引継ぎ業務を行うとなれば、承継先の不具合だけが目につき、心もさらに揺らぐ。
これをじっと考えるのが大人というもの。
すでに歩き始めたその足を止めることはできない。
でも、やっぱり、自分の事務所。お金には代えられないのでしょう。
自らの引退を、やはり認めたくないのでしょうね。いつか行く道ですが、その日はご自身しかわかりません。
こんなやり取りをするのが、事業承継支援室の業務です。
米国で見てきた会計事務所の事業承継と、やはり明るさが違うのはなぜでしょう。
次の一歩が、日本人にはないのでしょうかね。
事業を辞めること自体を、自らの人生の”終息”と考えているのでしょうか。
この7年間で初めて、少し寂しい思いを感じた、本日のある事案でした。
事業承継支援室長
大滝二三男