税理士事務所で一番のコストが、人件費。優秀な人材を獲得するには、それなりの給与を準備しなければいけない。とはいうものの、世間の相場に比べて低いのが”常識”。
個人事務所の場合には、職員の給与が高ければ、所長税理士の実入りはその分少なくなる。昔から売り上げが減ったら、職員を減らすということが当たり前のように行われてきた。
高齢の税理士さんの場合は、指定の成長とともに、自らの資産形成は終わり、孫たちが高校大学といった年齢になってくると、事業意欲も失せ、お客さんを増やそうといった気力もなくなり、事務所も枯れていく。
こうなると、数人の職員(女性職員だけの事務所が圧倒的に多い。)の給与の方が、税理士さんの取り分より多くなる。いわゆる労働分配率は、7割を超えることも少なくない。
なぜそんなことが分かるかと言えば、事業承継のお手伝いを長くやり、多くの高齢化した先生の青色決算書をチェックさせたいただいた、その結果です。
このようなケースは、やはり企業としては健全ではないが、税理士事務所はこれでも運営できているという特殊な企業形態でもあります。一般の企業ではとても考えられません。
そこは商品の仕入れはないから、極端に言えば、人件費が大きなコスト要因であり、会計システム費用と合わせて経費の大部分を占めることになる。当然、人あっての事業であるから、人件費比率が高いのは当然。
こんな労働集約的な事業である税理士事務所で、中には労働分配率が30%にも満たない例もある。そんな事務所の先生の取り分は50%を超えている例もある。家族授業員を加えると、実に7割という例も。
もちろん、先生と家族従業員だけの事務所を除いているので、家族がほとんど業務に関与していないで、7割を超える収入を懐に入れていた先生もいました。
これに対して、税理士法人となると、やはり労働分配率は高くなります。キャッシュフローを考えると利益は2割確保したいところですが、コストから考えるとなかなかそうも言えません。
中には労働分配率が65%を超えているところもありますから、こうなると、なかなか次のステップに進む”投資”に注入する資金が確保できません。成長を目指しながら、そこに手が届かないといったジレンマもあります。
こうみてくると、税理士事務所の経営は、個人事務所のままで、規模もあまり大きくせず、いつでもコストカット(職員カット)ができる態勢で維持していく方が、”健全経営”なのかもしれません。
しかし、もう個人ですべての税務を見ていくことができる時代ではないというのが、業界の見方ですから、どうしても共同事務所、税理士法人化、さらに大規模税理士法人の流れは止められないでしょう。
だからと言って、個人事務所がなくなるわけではありません。小規模に、お客さんの顔が良く見える、先生と職員数人の事務所はこれまで通り生き続けるでしょう。でも、高い顧問料は期待できないでしょうね。
事業承継支援室長
大滝二三男