都内の税理士法人の就職説明会に参加し、その後入社試験・面接を受けたが、不合格だった地方出身者。
願いが叶わなかったため、地元の税理士事務所に就職し、仕事に励むなかで事務所内でも幹部に成長した。
税理士試験にも挑戦し続け、会計2科目と所得税に合格しているが、この間結婚し、子供も生まれた。
税理士事務所の職員によくあるように、この職員も仕事と家庭生活の間で、試験勉強はお座なりになった。
そこにきて、事務所の事業承継話が進み、税理士法人の支店となることが決まり、職員は全員が移籍した。
もちろん、幹部職員になっていたこの職員には、法人本部も期待を寄せていることを伝えられた。
本人は、入社試験に落ちた経験があるだけに、その事実を本部が分かっており、評価は低いと考えていた。
しかし、本部はその事実を持ち出すことは一切なく、事務所での業務遂行実績を評価し、期待を表明した。
事業承継後、その実績を買われ、所長代行に昇進。その上、大学院へ進み、資格取得を薦められた。
家庭を維持するだけで精一杯の給与しかなかったので、学費を払う余裕はなかったが、法人が貸与した。
昇進したため、給与が上がり、そのアップ分を学費の貸与の返済に充てることが可能になった。
事業承継で、吸収される事務所の職員は低い評価をされると考えていたのは、大間違いだったことが判明。
引退した元所長は、「君が試験に受かれば、承継したのにね。でも私の判断は間違っていなかった」と話す。
まさに、負い目だった入社試験不合格も、税理士資格を得た今になってみると、楽しい思い出になった。
この職員、今では支店の社員税理士として業務を統括し、顧客数も拡大させ、本部も高い評価をしている。
このような事例はまだまだレアケースだが、今後経営統合が盛んになり埋もれた才能が生かされるだろう。
事業承継・M&A支援室長大滝二三男