勤務歴十数年、尊敬できる先生の下でしっかり実務もこなし、一人前に。
今では当然、実務経験の少ない税理士からの相談も指導できるまでになっている。
そんな先生からのご相談がありました。
所長先生が病に倒れ、数年間一人で事務所を支え続けてきた。
この間に先生の知人の息子さんが、”助っ人”に来ていた。
数か月前に先生が死亡。事務所の後継者として、その”助っ人”先生が決まった。
これをきっかけに、これまで遺族との関係がぎくしゃくしていたので、独立を決意。
承継の対価は払うつもりであったが、先生の遺族があまりに高額な対価を要求。
果たして払うべきか、高額の要求は業界的にどのようなもんかなどが相談内容。
実に人間関係のぶつかり合いの中の相談なので、こちらも対応は慎重に。
原則論を言えば、所長先生が死亡した段階で、お客さんと所長との契約は切れている。
死亡後の申告などは、相談者が行っており、実態は相談者のお客さんになっている状況。
しかし、相談者とお客さんとの契約は正式には行われていない。
となると、死亡した所長の遺族に太顔を要求する権利はないと言っても良いことになる。
あくまでも道義的な責任で、相談者が承継の対価を払うと言っているわけで、法的な義務はない。
こう言い切ってしまえば、それまで。
実際に勤務税理士が担当していたお客さんから契約の解除を通告されても、手出しはできない。
明らかに勤務税理士である時に、自分が独立する際にはついてきてくださいと営業しているかどうか。
その点が証明できれば、お客を持っていかれた先生は損害賠償を請求できるのだが。
先生が死亡した後に、だれが営業しようが、法的には問題なし。
国税当局も「税理士等は一身専属の資格であり、のれん代はない」と判断し、対価は雑所得の判定。
同じことを言いますが、先生の死亡して時点で、お客さんと先生との契約は切れています。
したがって、先生のご遺族の”相続財産”ではないので、本来的に承継対価の要求には無理があります。
しかし、社会常識としては、道義的な責任から、そして社会人として、対価を払うことはMUSTでしょう。
その金額については、勤務税理士の貢献度や退職金との兼ね合いもあり、慎重に検討すべきです。
法外な要求は、混乱の元であり、将来的に禍根を残すような結末を迎えないようにしたいものです。
人の口の扉は立てられません。いつかはひどい仕打ちだと世間様の噂になるのは得策ではない。
こんな相談が来るようでは、地域の税理士会も本来的な相互扶助の活動ができていないのかも。
事業承継支援室長
大滝二三男