個人事業である税理士事務所の事業承継は、あくまでも先生の代替わり。
その意味するところは、経営者の交代であることをだれもが納得するところです。
高齢やその他の理由で、税理士事務所の経営を継続できないから事業承継をするわけです。
そこには、事務所の職員の雇用を確保するためにも、廃業の道は取らず、承継となります。
経営者が「この人!」あるいは「この法人!」と決めたことに、果たして誰が異論をはさむのでしょうか。
家族でしょうか。一番最初に相談するのは、もちろん先生のご家族でしょう。
生活のこと、老後のことなどを考えると、奥さんの了解がなければ、税理士は辞められません。
その次に来るのは、息子さんや娘さんたちでしょう。
死ぬまで、事務所を続けるだろうと考え、その”恩恵”に預かる人も、相談されなければへそを曲げます。
最後に、従業員に対する報告でしょう。最終的な決断は、先生の一存で決まります。
契約ももちろん先生が、一人で行います。その結果を職員に告げます。
先生が事業承継をすることで、長期的に職員の雇用が守られ、顧問先にも安心してもらえます。
事業承継の相手から税理士が派遣されてくるときに、その人物に感想の述べるのは当然です。
しかし、見た目だけで判断する傾向が強いのも事実です。
事業承継を経験している税理士が承継された事務所の職員の気持ちが分からないわけありません。
でも、やさしかった先生から、クールで厳しそうな税理士がやってくるとなると、職員は不安になります。
自分たちとうまくなっていけるのだろうか?
事業承継をしてからだと厄介だから、先生から報告(宣言)があった今のうちに反対!!
そう叫ぶことで、環境の変化を回避できたら良いと、保守的な職員は考えるでしょう。
やさしい先生は、その声に反応して、「それなら止めようか!」なんていうことにもなるかもしれません。
しかし、このような事務所の場合、いつまでたっても事業承継できず、そのうち先生の死亡なんてことに。
事実、先般ご遺族から相談あった事業承継失敗例は、まさにこの例でした。
結果は、事務所は分裂。顧客はそれぞれ新たな税理士を見つけて離散。職員も路頭に迷いました。
極端な例かもしれませんが、職員の方々は経営の責任は取りません。
日々の実務が自分たちのいい気分でやれるなら、それでいいと考えているかもしれません。
経営者はそうではありません。職員に反対されても、それに毅然とした態度が必要です。
そうでなければ、事業承継などは考えず、ご自身の体がいうことを利かなくなるまで、続けるべきでしょう。
上手くいっている事例は、先生も職員と一緒に事業承継後も働き、”選手交代”が順調です。
事業承継支援室長
大滝二三男