事業承継の仲介をしている際に、良く聞かれる話が「社員税理士にはなりません」という声。
経営者の一員・役員になることを、サラリーマンであれば夢見ることだろう。
税理士にとって、独立して自分の事務所を構えることも目標の一つ。
しかし、独立もそう簡単にできる時代ではないことも、税理士であれば認識している。
それゆえ、大手税理士法人に勤務する税理士も急増中。
地方都市では、個人事務所に勤めようという税理士は少数派。
若手税理士が欲しいという個人事務所の先生には、優秀な人材を獲得するチャンスは激減している。
税理士にしてみれば、個人事務所では”面白い仕事”に出会う機会が少ない個人事務所を敬遠。
独立するにしても、多様な事案を経験できる税理士法人へ顔が向いていくのは、これまた当然のこと。
そこで経験を積んだ税理士に個人事務所の所長が、「一緒に税理士法人を作ろう」と提案するのだが、
「社員税理士になる気はありません。今のまま勤務税理士で頑張ります」という答えが返ってくる。
所長と同格になるのが嫌というより、自分が関係しない事案の不都合で、責任を負うのは嫌という。
企業の取締役なら、当然責任の所在を明らかにする一方で、共同責任を負うのは当たり前。
株式会社でもないのに、役員(社員税理士)として、連帯責任、それも無限となれば躊躇もする。
そこで、自分が関係しない事案の責任は負わせないという有限責任制にできないのだろうか?
公認会計士の場合、世界的に有限責任制を取っているので、わが国でも数年前に有限責任に。
同じようになぜ、税理士法人の社員税理士は、無限連帯責任を取らされるのだろうか。
税理士会として、この制度の改革を要求する動きがないのはなぜなのだろう。
ある税理士法人の代表者は言う。「税理士会の役員のほとんどが、個人事務所のオーナーだからね」
圧倒的に個人事務所の方が多いこの業界にとって、税理士法人の責任体制に関しては無関心。
そう断言してもいけないだろうが、やはり税理士法人が成長していく中で、この制度が壁になっている。
勤務税理士から社員税理士への登用を拒否されて、已む無く税理士法人の傘下に入った先生も少なくない。
もちろん、無限連帯責任だけが障害になったのではないだろうが、その一つであるのは事実だ。
大きく税理士業界が発展するためにも、組織化を勧めるためのも、障害は早く除去すべきではないか。
事業承継支援室長
大滝二三男