通常、事務所を閉鎖を決めるのは、当然、経営者である税理士。
高齢を理由に辞めようと決意しても、職員がまだまだ働ける年齢だと、辞めるに辞められない。
こういったケースが、大変多く、なかには職員が年金を支給されるまで、頑張るという先生も。
また、家族の面倒を見るために、老体にムチ打って、税理士稼業を続ける人が普通。
辞めると決めて、職員に「俺は辞めるから、自分で仕事先を探してほしい」と宣言する先生も。
病気で辞める時には、気力がなくなり、そんな状況にもなるようだが、職員にも気の毒な話。
今回のケースは、事務所の閉鎖を職員が決め、所長を1年がかりで説得した稀なケース。
先生も高齢だが、職員3名も全員70歳を超え、そのうちの一人はガンと闘っている状況。
しかも、この先生、40年近く前に、飲食業を開業し、チェーン店化にも成功した事業家。
自分で店に出てお客の相手をするとか、料理などをするわけではなく、もっぱら経営に専念。
その飲食店の同業者から、ベテラン職員を引き抜き、おお店の方はその職員任せ。
その一方で、税理士事務所は、これまた職員任せ。
当初の数年間は、申告書もチェックし、税務調査があれば立会いもしていた。
しかし、飲食店のチェーン店が増えると、そちらの方に関心が移ってしまう。
こうなると、税理士事務所の経営は、一人の職員におんぶにだっこ。
この職員は、ニセ税理士状態。なんとその状態が40年以上続いていた。
売上から職員の採用、事務所の経理から事務用品やシステムの採用などもすべてその職員の手に。
顧問先との懇親会やゴルフコンペなども、先生は一切参加せず、名義貸し状態。
よくもこんな事務所が長期にわたって存在したものだと、感心するやらあきれるやら。
でも、その職員が「私も辞めたいから、事務所を閉めますよ」と、宣言するも、先生は”抵抗”。
「もう少しできるだろう!」と渋るのだが、税理士としての収入は、源泉徴収の還付金だけ。
83歳の先生、奥さんに先立たれ、息子さんも独立し、生活にお金はそれほどかからないはず。
それでも、事務所経営を任せっきりにして40年以上になっても、辞められない、その気持ちはいかに。
そんな職員さんからの事情をお聞きし、早速同じ地域の税理さんを紹介。
その職員が担当する顧問先だけの承継ということになったが、これがすべて引き継ぎに成功。
もちろん、高齢の先生も廃業を決意し、その手続きもその職員の手によって無事終了。
話が無事終了したことで、職員さん「これからは好きな時に、好きなゴルフができる」と笑顔で語っていた。
でも、あるんですね。こんな事務所が。
多くの名義借り状態にある事務所を見てきたが、こんなケースは初めての経験でした。
事業承継支援室長
大滝二三男