正確には「転職」ではなく、他の税理士事務所にお客さんともども移った職員のこと。
先日お会いして先生の事務所も、開業40年を超える歴史ある事務所。
先生も80歳を超えて、そろそろ引退を考え、当支援室に連絡をいただいた。
職員は3名だが、そのうちの男性職員はお客さんを連れて、他の事務所から移ってきた。
もうかれこれ20年以上前の事。当時、その職員は税理士試験し挑戦中、4科目に合格。
残り1科目という状況で移籍。その時の条件が、5科目合格まで、お客さんを預かってほしいというもの。
業務はもちろん、その職員が担当し、先生はその申告書をチェックするだけの状態。
いわば、事務所内”名義貸し”。売り上げもその職員のものとし、それ相応の経費も負担。
先生は税務署対策上、税務申告もその職員の売上、経費も自分名義で申告。
その職員の給与は、売り上げから経費等を差し引いたものを、事務所から給与として給付。
このような変則的なことが、長く続くとは考えてもいなかったという。
というのも、残り1科目をすぐにでも合格し、税理士として独立。
その際持ってきた顧問先と一緒に出ていくので、事務所を貸してあげている程度にしか考えていなかった。
所が何時まで経っても試験には合格できず、一時的と考えていたものが、なんと20年以上に。
税理士を卒業しようと考えていたのだが、その職員の事が気がかりで、事務所を閉鎖できずにいた。
でも、限界と思ったのが数年前、会計システムのリース契約が切れる時に廃業する腹を決めた。
こんな正直な先生もいらっしゃるわけで、”名義借り”を続けた職員は感謝こそすれ、文句を言う筋ではない。
もちろん、先生にも当局には明言できない”後ろ暗さ”はある。
しかし、その職員の売り上げも正確に合算して申告しており、脱税行為はもちろんない。
この引退劇で、その4科目合格、顧問先を持ってきた職員も一緒に引退する決意を固めることに。
本当に税理士事務所の形はいろいろあるものだと、日々感じている次第です。
この先生の「引退の花道」は、しっかり当支援室で飾らしていただきます。
事業承継支援室長
大滝二三男