昨年暮れにご相談のあった案件です。
80歳を超える税理士さんの息子さんからの電話でした。
「父親がすぐにも辞めたいと言っているので、良いお相手はいませんでしょうか」
電話から聞こえてくる調子は、深刻な状況を訴えるようだった。
すぐに予定を組み込み、地方都市に向かった。
息子さんは4科目を取っていながら、残り1科目への挑戦を諦め気味。
実務を切り盛りしているというものの、職員の数からすると、顧客が少ない。
ご家族はというと、70を超えたお母さん、奥さんも事務所で働いているという。
先生を入れると、なんと7名の事務所。売りが訊くと、職員数から判断すると平均の半分以下。
しかも、会計法人があり、その役員を息子さんが務めている。
これで分かる人は当然分かってしまう。つまり、先生は辞めるに辞められない状況に陥っていることを。
まず、基本的の状況を把握させていただき、その後文書により第一次提案を行い、回答を待った。
当方の提案に対する答えは、「私どもの考えと若干違いがありまして、回答が遅れましたとのこと。
その内容は、「共同経営はできませんでしょうか」というもの。
先生が税理士を辞めるのだから、共同経営などはできるはずがないので、その旨を言う。
「会計法人で経営権は持てますよね」というその反論に、「ニセ税理士をやろうというのですか?」
これに対して、「税理士さんに来てもらい、私どもと一緒に仕事をしてもらいたいのです」
最後には「判子だけをお願いしてるケースが、ほとんどですよね」ときた。よくあるケースだ。
つまり、「父親の税理士が獲得した顧問先を、他の税理士に取られてなるものか」
「父親がいなくなっても、お客様は我が家にお客様なのだ。取り分は減っても、権利は残したい」
やっぱり、資格ビジネスが分かっていない。「いや、わかっちゃいるけど、辞められない!」といったケースだ。
ニセ税理士も名義貸しも認めない当事業承継支援室としては、この段階で交渉をストップ。
説得を試みても、家族が皆、経営権を放棄する気がないし、その可能性もなし。
法律を破るつもりは毛頭ありませんので、「頑張ってください」と”エール”を送るのみであった。
2年間で3度も名前を代えた事務所もあり、「先生、またですかぁ」と言われながらも、辞められないのです。