歳を重ねるにつけ、いつ引退するかと悩む日々を過ごしている税理士さんは少なくありません。
先日も3年前に相談に乗った先生から「腹が固まった」という電話が入りました。
お会いしてお話を聞いてみると、家族の了解を取り付けるのに時間がかかり、3年も経ってしまったという。
この間、事業承継を希望する先生と一緒に働いていた家族との間で、感情のもつれがあって、てんやわんや。
事業承継することによって、安定した生活ができなくなると、専従者の家族は主張し、承継に大反対。
しかし、80歳を超えた先生にとって、このまま事務所を継続していくには、気力も体力もままならない。
家族で事務所をやっている以上、家族の主張にも耳を傾けねばならないのも事実。
会計ソフトやシステムが今やしっかりしているので、通常の会計業務は任せきりでも、問題はない。
いわゆる、判子だけを押していれば、いくら歳をとっていてもできるが、それでは専門家としての沽券に係わる。
新しい税法改正にも正直対応できない自分を感じている先生にとっては、この3年間は苦痛そのものだった。
それでも、家族の生活を見るのももうこれきりにしたいと、この春に宣言。
専従者の家族も中年になってはいるが、何とか税理士事務所に仕事を見つけ、そこの従業員として再出発。
通常だったら、承継先の事務所に就職する道筋もあるのだが、この先生の場合はちょっと違った。
「もう、親の面倒にはなりません」と、資格のない専従者である息子さんは、やっと”独立”。
譲り渡す事務所は小規模のため、息子さんの面倒を見てもらえないだろうと、家族会議で結論だした。
ここまで条件を整備して、譲り渡そうとする税理士さんも少ない。
「息子に肩身の狭い思いをさせたくないので、自力で仕事を探させました」と、先生は言う。
そこで、3年前の相談を思い出し、今回事業承継本番を迎えたわけ。
承継候補はすでに決まっているので、その事務所を気に入るかどうかだけの問題。
先生は、正月からは新しい事務所のもとで、一部の従業員と引き継ぎ業務に専念し、完了後、引退する。
まさに40数年の税理士事務所長との決別を迎えることとなります。
しかし、この短い文章では、とても語りつくせない苦悩の連続からの”解放”ではないでしょか。
「本当にご苦労様でした」と、引き継ぎ完了後には、声をかけたいと思ってます。
事業承継支援室長
大滝二三男