一般の人(もちろん企業経営者を含め)たちが、税理士事務所と会計事務所の区別ができるでしょうか?
「先生」と言ったほうがいいのか、顧問先企業の経理担当者でさえ、毎月伝票等の受け渡しを行う会計事務所の担当者を「○○先生」と呼んでいることは、その担当者自身も認めるところです。
「先生」と呼ばれて悪い気持ちはしませんから、「私は先生ではないんですよ」と最初のころは小さな声で言うものの、たびたび呼ばれるうちに「まあ、いいか」となり、訪問するたびに”先生”に変身することになってしまいます。
筆者の友人がなじみになっていた呑み屋の”先生”と親しくなった時があったそうで、バブルがはじけた時、呑み屋の主人が持っていたゴルフ会員権が大幅に下落し、「損出し」をするように勧めたことがあります。
友人が税金関係の仕事をしていることを知っている主人夫婦からは「先生から一切そういうことは聞いたことがない」と言う返事。その後、メンバーになっていたゴルフ場が相次いで倒産。それでも”先生”を信じて帳面を預けていた次第。
その後、”先生”は50代を迎え、呑み屋の申告を担当していた税理士事務所を退職。税務署OBの税理士事務所に再就職し、実務がよく分かると重宝されていたが、しばらくすると正体がバレ、先生”の風下にも置けない御仁であることが判明。
”先生”の作成した申告は、数年間まったく同じ内容で、呑み屋の奥さん、若いころに会社の経理をやっていたため帳面付けはお手の物。その奥さんが記帳した経理内容をはじめの数年間は正確に申告内容に反映したが、その後は一切無視し、申告書をコピー。
そんなことは税務署がチェックするすればすぐ分かるはず。そのとおりだが、悪いことに居酒屋の中でも貴重な優良申告法人。数年間チェックが行われなかったため、その”先生”の悪さはつかめず、”コピー申告書”がフリーパスだったようだ。
最終的には税務署のOB の税理士がその悪さを把握し、”先生”を追放したが、顧問先の呑み屋夫婦は利益が出ていないにもかかわらず、優良申告法人として税金を納め、”名誉”を手にした。しかし、余計な税金を”先生”に払わされた事実が残っただけ。
このような事例を見聞きするにつけ、税理士事務所の職員を”先生”と認識し、どんなことも相談できると多くの人たちが一人合点していることが分かります。しかし、顧問先と真剣に付き合っているのもまた職員の皆さんで、先生以上に信頼を得ていることも事実です。
それだけに、本当の意味で尊称として「先生」と呼ばれ、資格がなくても、否、資格がないゆえに、偉ぶることなく、顧問先企業の経営者や経理担当者が本当に求めているものが何なのかを理解し、対応策を講じられる力を養っていただきたいものです。
「先生より、○○さん、あなただよ」と言われたいですね。いかがですか、資格なんて邪魔ではありませんか、ねえ、”先生”。
事業承継支援室長
大滝ふみお
でした。