個人経営が普通の税理士事務所には、複数の税理士がいることはそれほど多くない。
税理士独りで、職員は十数名という事務所も少なくない。
はたして通常の業務展開の中で、十数名の職員を指導・管理できるのだろうか?
多くの税理士が十数名でもできないことはないが、目が届きにくくなるのも事実という。
この規模になると、顧客には5月申告法人が圧倒的に多く、決算と申告書をチェックするのは重労働。
もちろん決算は職員が整理し、申告書も所長の指示の下、会計システムを使って作成。
いとも簡単にやっているようだが、税理士一人の場合にはすべてに目を通さなければならない。
最近の税務当局の目は、ベテラン職員の業務が野放しになっていないかどうかに向いている。
先月末に公表された税理士の処分でも、監督不行き届きで、業務停止になっている例もある。
コンプライアンスが厳しく求められてきているので、ベテラン職員も野放しにはできない。
そんな中で一人では限界と税理士を雇ったり、試験に合格した職員を勤務税理士として確保。
複数の税理士で業務が進んでくると、そろそろ引退を考えるようになり、後継者選びが始まる。
どんな人を後継者にするかは、所長の一存だが、なかなか眼鏡に叶う人は出て来ない。
長年勤務し、資格を持つ職員に白羽の矢を立てるのだが、創業者の目からは甘さが目立つ。
というより、後継者に渡すことに踏ん切りがつかず、決断を延ばし延ばししている例が多い。
自分が育てた後継者に、スパッと明け渡すことができる税理士の方が少ないだろう。
それも承継の際に条件提示ができない、特にお金に絡むときは言い出しにくいもの。
育ててやったんだから、それ相当の対価を提示してくれるはずだとも考えるかもしれない。
後継者の方も長年働いてきたので、タダでもいいと考えることもあるかもしれない。
話題にしにくお金の話、そこがすっきりできれば、答えは簡単だが。
「継いでくれればいいよ」との言葉を真に受けていたのでは、経営者候補としては疑問が残る。
事務所を引き継いでから経営者として自立するためにも、ある程度の資金を用意すべきだろう。
独立する際には設備を整える費用も掛かる。それを思えば、承継の費用も出せるはず。
事業を譲る先生と対等の関係を保とうとするなら、後継者は甘えを排除したいところ。
情だけに訴えていては、前に話が進みません。お金の話もしっかりしましょう。
事業承継支援室長
大滝二三男