税理士事務所を開業して30数年、職員で税理士試験に合格した若者はかなりの数。
所長が若い時には、税理士事務所に自分以外に税理士は必要ないと、独立を勧めた。
10数年前であったら、のれん分けをして独立させることもできたが、この10年はそれもできず。
この10年でも数人の税理士が独立はしたけれど、担当していた顧問先を持っていくことはなかった。
歳もとって、勤務税理士もいることから、現場には出なくなり、もっぱら管理するだけに。
管理と言っても、職員から日常の業務に関しては、報告を受けるだけで、それ以上は任せきり。
そろそろ事務所を勤務税理士に任せて、自分はする方向で、職員にもそれとなく話をする。
1年ばかり、そんな状態が続いたので、はっきりと資格者に事業を譲ることを明言。
その提案を聞いた勤務税理士は、「先生がいる間は、私は先生の下で仕事を続けた」と主張。
所長として、事務所を運営する能力はありませんともいう。あくまでも、勤務税理士のままという。
そうまで言われると、所長として自分の代わりに経営できる人を探さなければならない。
そこで、出た結論が、税理士法人と経営統合し、職員の雇用を守り、顧問先の信頼を維持すること。
様々な選択肢から、所長の気に入った税理士法人との合併の道を選び、契約も終えた。
30年以上に及ぶ税理士事務を閉鎖するのも忍びないが、職員を守るためにも最高の選択との自負も。
そして、自分も法人の社員税理士として残るので、一緒に従来通りの業務を行っていこうと話す。
職員の雇用も守り、給与などの待遇も維持できると、自信を持って職員に契約完了を宣言。
ところがどうだ。税理士法人の役員などと面談した後に、勤務税理士は「事務所を辞めます!」
同時に、「これまで担当させてもらった顧問先には手を出しません」と、大見得を切った。
独立できるだけの能力はないし、お客さんはすべて自分が開拓したと自信に満ちた所長。
そこで言ったことが、「そうか、独立するのは大変だけど、営業できるか?頑張れよ!」
契約が完了した税理士法人も、勤務税理士が残ることを条件としたので、契約を解除。
これには、所長も一切抵抗することができず、現状のまま事務所を継続することに。
しかも、勤務税理士は残る職員への事務の引継ぎも形ばかりで、積極的なことはせずに退職。
その退職後、直ちにその勤務税理士担当の顧客から次から次と、契約の解除が告げられる。
こうなると、辞めるとともに営業に走ったと思われても仕方がないが、証拠がない。
競業の避止規定を下に、裁判に訴える手もあるが、時間と資金面を考えると二の足を踏む。
しかも、具体的な証拠を集めるにも、相当の費用が掛かるので、泣き寝入り。
さらに、残った職員からも辞表が出され、事務所の現場を預かる人材がほとんど退職。
こんな事務所になってしまった原因を追究することも、今となってはその元気もない。
こんな事例は初めてのもの。
本当に100件を超える案件のお手伝いをすると、いろいろですね。
こんなことがないように、事業承継をお考えの先生、事務所の状態をしっかり把握してください。
事業承継支援室長
大滝二三男