税理士事務所に勤務する税理士・職員は、退職に際して必ずいう言葉が「お客さんは持っていきません。」
さらに、「先生のお客さんですから、引継ぎをしっかりやって、後を濁さないようにします。」
税理士事務所を辞めて転職先をはっきり言う人でも、果たして本当のことを言っているでしょうか。
「友人の会社が経理責任者を欲しがっており、友人を助けることになりました」という、よくある話。
経理責任者を探しているような中小企業であれば、今の時代相当な黒字企業だろう。
果たして、そんな企業の経営者が、友人を経理責任者として雇うだろうか。
数年前にも、綺麗事を言って辞めた50代の職員が、数か月後に元の担当先に営業を掛けていた。
もちろん、差し出された名刺には、隣の町の「××税理士事務所主任」という肩書があった。
そのことは、営業を掛けられた顧問先の社長から伝えられたもので、そんな職員に退職金まで出した。
まさに”泥棒に追い銭”。「しっかりやれよ、家族もあることだから…」と励ました先生も言葉も出ない。
しかし、辞めた職員は、「契約解除をするのは、お客さんの自由だ」と言ったか言わないか。
「顧問契約を解除するには、数か月前に通知しなければならない」
こんな契約をしている事務所もない。
契約を解除させたのが元職員であったとしても、その確たる証拠はつかむのは難しい。
お客さんを取られた先生としては、これに黙って従っているわけにもいかない。
裁判をするにしても、時間も金もかかる。
だから、採用する際にしっかりと制約をさせるわけだ。
「辞めた後に担当の顧問先と接触をしてはならない」し、その罰則規定も明確にしておく。
これを頼りにするしかないのだが、事務所を辞めるにはそれ相当の理由がある。
しかも、税理士事務所にしか勤めたことがない職員が辞める時には、特に注意が必要だ。
中でも男性の経理担当者を募集しているから、そちらに行く、なんていう話は論外。
どこかの税理士事務所に就職するしか、生活を維持する方法はないだろう。
そうなると、お客さんというお土産を持って、同業者の門をたたくことしかない。
だから、お客さんを持って行っていいという話では決してない。
高齢の先生の事務所で、閉鎖するのではといった雰囲気の事務所では、よくある話ではある。
事業承継支援室長
大滝二三男